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ブリーダーからオーナーへ手放すとき

犬を新たな家族として迎える場合には、さまざまな出会いの経路が考えられます。犬はその「社会性」の醸成のために生まれてから6週から7週で飼い主の元に引き取られるのがいいとされています。そのため、ペットショップなどではなく、直接親元、つまりブリーダーから譲り受ける場合も多いものです。

犬は自分がどのような「群れ」に属しているのかを考えずにはいられません。そのような意識が根付いてしまう前に、飼い主の元に引き取られるのが理想的なのです。ですから、ブリーダーをやっていれば、自分が繁殖させた仔犬が引き取られる瞬間に立ち会うことも多々あるでしょう。

特に初めて繁殖させた犬であれば思い入れもあるでしょう。ですが、その犬を最後まで面倒見るのは新たな飼い主の役目です。ブリーダーはその仔犬が元気に暮らしていくことを祈るしかありません。その先20年間のパートナーを見つけた飼い主の笑顔、そのためにブリーダーは存在しているのです。

繁殖させて生み出した仔犬に思い入れをもってはいけないわけではありません。自分が関わった犬に思い入れのない人などはいません。ただ幸せを願う。それは必要なことです。犬が「モノ」になってはいけません。ブリーダーは犬を繁殖させて生きています。「命」が、それも飼い主と共に20年間あまりも時を過ごす犬が、ただの「商品」になってしまってはいけないのです。ブリーダーは飼い主と犬の出会いを作り出すのです。その20年間は何事にもかえられない「価値」があるものです。飼い主にとってみれば、まさに一生モノの体験になるのです。

愛犬と飼い主は「家族」、さらにはそれ以上の存在になります。「可愛い犬」という存在はやがて言葉では表せない「大切な存在」に変わります。犬も、飼い主とその家族に対して深い親しみと愛情を持つようになります。さまざまな事柄を共有し、同じものをそれぞれの視点で見るのです。そばにいることが当たり前であるように感じられます。しかし、人間と犬の時間の速さは違うものだと、感じることになるでしょう。

愛犬と過ごす限られた「時」は、誰も犯せない尊いものです。ブリーダーはただ仔犬を増やしているのではありません。その大切な時間を過ごすための命をはぐくんでいるのです。それをただの」仕事」と割り切るのはあんまりです。ただの「ビジネス」と割り切るのはあんまりです。

繁殖させた仔犬が飼い主の元に引き取られる瞬間、その飼い主と仔犬の尊い歴史がはじまるのです。その瞬間に、仔犬はただの仔犬ではなく、その飼い主のかけがえのない「愛犬」になるのです。

ブリーダーの仕事は、「歴史を売る」ということなのではないでしょうか。ただの動物を売るのではありません。その仔犬と飼い主の、その未来の可能性を提供するのです。そう考えると、「ただ犬がいればいい」というわけではありません。元気で、丈夫に育つ犬でなければいけません。

そのためには囲いこむ、また抱える犬たちがすべて健やかでなければいけません。するべきことは明白です。ブリーダーの目先の仕事ではなく、少しでもより健やかな犬を飼い主のもとへ。

仔犬を引き渡す瞬間は、ブリーダーとしての「すべて」が問われる瞬間でもあるのです。

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